2016年11月8日火曜日

【展示作品について】
 被写体は小林志乃さんという友人のダンサーです。
 そのエネルギーや時に見せる圧倒的な存在感、集中したときに感じさせる宇宙とつながっているかのようなスケール感。彼女を撮るときには、そういったパワーを捕らえたいという気持ちだけで撮っています。
 ダンサーを見ていると、ここが世界の中心ではないかと思えることがあります。卓越した身体コントロールや表現力の高さ、空間との融合、その空間を読み取り自らの表現に変える力。ストリートであっても建築物の中であっても今回のような自然が相手でも、瞬時に空間と溶け合い、融合し、自らのものにしていく。私は自分が感じるそうした圧力のようなものを、なんとか表現できないかともがいているところです。
 今回の作品は約1ヶ月をかけて撮り下ろしたものです。東川アウトドアフェスティバルの、自然と人というテーマの中で、彼女と共同作業を重ねながら自分たちの表現をしてみようという挑戦でもありました。
 撮影ではいくつか決めたテーマの中に彼女を捕らえて、そこから何が生まれてくるのかを見てみたいと思いました。場所だけを決めて、後は現場あわせでやってみる。その場でダンサーが感じていることと、私が受け取った印象とを組み合わせていくのは、セッションの喜びと充実感に満ちていました。

■rock
作品のテーマは4つ決めていました。それぞれ岩、水、空気、砂、です。私の中でアウトドア、から連想したものがこの4つでした。
 rock(岩)の写真は東京の奥多摩にある鍾乳洞で撮りました。暗くて湿っている場所なので、ものすごくダークな写真になるんじゃないかと思いましたが、そういう作品を、後から出てくる空気をテーマにした写真と対比させたいと思ったからです。
 鍾乳洞で撮りたいと彼女に話したら、いいんじゃない?と嬉しそうでした。暗く湿った洞穴の中で、ダンサーがどんな動きをするのかは、とても興味深かったです。
 今回は組み写真にしましたが、テーマごとに複数の写真を使うことでそれぞれのテーマが浮き上がってきたと思っています。組み写真ごとにまとまり感が出たし、鍾乳洞の写真がただ暗いだけではない、味わい深いものに感じられました。

■air
この作品と、次の砂をテーマにした作品には、彼女のダンス教室に通う10歳の生徒にも参加してもらいました。生徒のダンサーはとても熱心にダンスを習っていて、ダンスマインドを吸収している最中です
 もともとその子も普段はふざけたりして子供らしい表情をしていますが、いざ踊り出すと瞬間にスイッチが入って人が変わるようなアーティスティックな面を持っています。今回の撮影でも、そういった個性が鮮やかに発揮されていました。
 この撮影は一泊二日で出かけましたが、初日はどしゃ降りで一枚も撮れませんでした。二日目の夜明けに晴れましたが、雨のせいかくっきりと晴れるのではなく、少しぼんやりした朝日でした。その、なんとなく空気が湿っている感じが他の写真とも調和していて、とても柔らかでしっとりした写真になったと思います。

■sand
本当は鳥取砂丘のような、呆然とするくらい広い所がいいなと思っていたんですが、結果的には小さな砂浜でじゅうぶんでした。
 たいていの撮影では被写体が黒い服を着て、布を手にしています。今回も布を使うスタイルでいくことは決めていましたが、二人なので白と黒にしようと決めていました。
 二人ともダンサーですが、撮影の現場で音楽はかかっていません。じゃあそこで、という場所だけお願いして、あとは完全にお任せです。私はその場でダンサーが感じたものを、そのまま演ってほしいと思っています。
 彼女たちの動きが入ったことで、私が砂浜に持っていたイメージが際立ってきました。私は、どこか違う惑星に漂着したような、よりどころのない浮遊感を撮りたかったのだなと、写真を組みながら思いました。

■water
神奈川県の中規模の町の郊外です。以前から気になっていた滝で、water(水)の撮影はここでしたいと思っていました。
 最初は滝壺の中に入ろうっていう予定だったんですが、今年は雨が多かったので以前よりも水量が増えていて無理でした。それもあって予定どおりではない、その場でできることを探しながらの撮影でした。けれど上がってみると、思ってもいなかったようなストーリー性が見えてきておもしろかったです。
 この滝は町からも近いのに、このときは私たち以外誰もいませんでした。滝壺の所だけ緑が濃くて原始的。そこにだけ自然がぎゅっと凝縮されている感じは、滝も樹も岩もすべてが、そのために作られた劇場にいるようで感動的でした。
 今回の作品を撮るには、約1ヶ月かをかけていますが、撮影の順番としてはこの滝が一番最後です。それだけに被写体との気持ちのやりとりもできあがっていて、自分と彼女と、その場の自然のエネルギーのようなものが心地よく融合した感じがしました。
 表現していく過程のすべてが無理のないフロウに乗っていたという意味で、私にとってこの写真は特に思い入れのある9枚です。同時に、自分がこれからどんな表現をしていきたいのかが手触りとなって確認できた撮影でもありました。

■monochrome
airの日に撮ったものです。大きな水たまりは、前の日のどしゃ降りでできたものかもしれません。あの、ひどい雨のあと、明け方の砂浜で青空を映し出す水たまりに出会えたことは、偶然の力を借りた必然のような気がしました。水と空気と砂と人とを一緒に撮るという機会は、この時でなければできなかった表現だと思います。
 出展は4点の予定でしたが、ここまでの4点がカラーだったので、写真を組みながらモノクロームを作りたいと思っていました。そこで、最後の最後に組んだ作品です。
 今までの撮影は被写体とふたりだけでしたが、今回はもう一人参加してくれました。そうなると時間の流れ方や、撮影のペースも変わってきます。いつもと違う賑やかなムードは、とても新鮮でした。何よりもダンスの教え子の中でも群を抜く熱意、努力、集中力を発揮する才能がその場にいてくれた。そのことは大きな喜びでした。10歳のこどもが踊る姿を見ながら、未来は続いていくのだなぁという、あたたかな希望を感じました。
■naka_idea
Christian Diorやsummer sonic、adidas tokyoなどのInstagram企画に採用されるインスタグラマーであり、札幌・旭川エリアを滑り続けていたスノーボーダー。
今回の作品郡は、被写体と自然空間、そして撮り手の一体感を意識した内容。漂うエネルギーが融合する瞬間が作品に凝縮されている。
https://www.instagram.com/naka_idea/